早川はる(はやかわ はる)氏
―早川さん、こんにちは。「素敵な老後のお小遣い稼ぎ」というテーマでお話をうかがっています。本日はどうぞよろしくお願い致します。
早川:こんにちは。こちらこそ、よろしくお願いします。
―とても上品で優雅な雰囲気であられて、もう見るからに素敵な老後を送られているんだろうなと感じるのですが。
早川:あらあら、そんな褒めていただいたって何もでませんよ(笑)
―いやいや、本当に何かいい暮らしをなさっている余裕のようなものを感じます。そこにはやはり今日教えていただくお小遣い稼ぎのおかげということもあるのでしょうか?
早川:ええ、まぁ多少それはあるかもしれませんね。実際に私がお小遣い稼ぎを始めてからは収入が年金だけではなくなりましたので、それが心の余裕や豊かさに現れているのかもしれません。嫁には怒られちゃうんですが孫にゲームソフトを買ってあげたりとかしてね、一緒に遊んだりしているんですよ。
―それはお孫さんも大喜びでしょうね。それでは早速そのお小遣い稼ぎについて教えていただきたいのですが、それに手を出されたきっかけというのはどういったことだったのでしょうか?
早川:きっかけは私の知り合いの立花さんがホームレスをしているのを見てしまったことからですね。近所の中華屋さんを経営されていた方で、昔は繁盛していたんですが、潰れちゃってね。公園の一角にダンボールやビニールシートで作った家があって、そこに住んでいるのを見てしまったんです。
―それは胸が痛みましたね。
早川:はい、それで何か少しでも彼の力になれることはないかと思って、私がフリマサイトでやっていたビジネスを手伝ってもらうことにしたんですよ。売り上げの10%はあげるからいっぱい集めて持ってきなさいって。
―フリマサイトでやっていたビジネスとはどのようなことでしょうか?
早川:簡単なことなんです。風の強い日なんかに外に出ると服やら布団やら落ちてることがあるでしょう? アレを持ち帰って売るんです。
―え!?
早川:仕入れにお金が掛からないので、利益率がすごくいいんですよ。仕事もなく一日ふらふら歩いている立花さんにこれをお願いしたら、他のホームレスたちにも声を掛けてくれてね。あっという間に10人のホームレスを雇うことになって売上も10倍になりました。情けは人のためならずとはよくいったもので、やはり誰かのために何かをしようと思うと巡り巡って自分の利益にも繋がってくるんですね。イオンの前とかで張ってると鍵を掛け忘れた電動自転車が結構手に入るみたいで、それを売るだけで1台で何万円にもなりますから本当にありがたいことです。
―早川さん、申し上げにくいのですがそれは犯罪ですよ。
早川:え?
―遺失物等横領罪という犯罪行為に当たります。
早川:そんなことないでしょ(笑)
―そんなことあるんですよ。
早川:拾ったのがホームレスでも?
―はい、ホームレスでもです。
早川:それはおかしいでしょ! 仕事のないホームレスなんてみんな落ちてるものとか盗んだもので生活してるんだから、適当なこといわないでちょうだい!
―適当なことをいっているわけじゃなく、犯罪なんですよ。
早川:まぁ私は何も知らずにホームレスが拾ってきたものを売っているだけなので問題ないわよ。悪いのは立花さんたちなんだから。
―いや、さっきの電動自転車のくだりとか完全にアウトですよ。
早川:聞かなかったことにしてちょうだい。
―いえ、さすがにそれはできません。警察に自首しましょう。自首しておけば裁判所での判断が軽減される可能性があります。
早川:うるさいわね! あなたが聞かなかったことにしておけばいいだけじゃないの!
―すいませんがこのボイスレコーダーで録音をさせてもらっていますので、自首しないというのならば私がこれを持って警察に行きます。
早川:なんなのよアンタ! いい加減にしなさいよ! それをよこしなさい!
―うわ、何をするんですか、やめてください! 離してください!
私たちが揉めているのを見て、他の客が通報してくれた。
「あんたのこと絶対に許さないからね!」
パトカーに押し込まれながら叫んだ早川さんの顔は、もはや品性の欠片もない、鬼の形相であった。
※このインタビューはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。