小滝 大樹(おだき たいじゅ)氏
―はじめまして、本日はどうぞよろしくお願いします。それにしても、すごい格好ですね(笑)
小滝:そうですか? 別におかしな格好ではないと思いますが。
―いや、ギリアウトだと思うんですけど(笑)とりあえずお話を聞かせてください。小滝さんは、その、何を目指していらっしゃるんでしょうか?
小滝:何って、金魚ですよ。インタビュアーさんだってそれを知ってて取材に来たんでしょ?
―いや、すいません、想像以上のビジュアルだったもので、ちょっと確認したくなっちゃいました(笑)小滝さんはいつから金魚になりたいなんて思うようになったんですか?
小滝:なんだか失礼ですね……。金魚になりたいと思い始めたのは小学生の頃ですね。僕はこの寺のせがれなので、池の金魚たちに毎日餌をやっていたんです。その頃学校ではイジメを受けていて、自由に池の中で泳ぐ金魚たちを見ながら「僕も金魚になりたいなぁ」なんて漠然と思っていたんです。
―その思いが実際、今のような具体的な形になったのはいつ頃からなのでしょうか?
小滝:昨年、大学を出てから新卒で入って十年勤めた会社を辞めたんです。そのとき次は何をやろうかなって考えて――真剣に考えて、子供の頃に憧れていた夢を叶えてみたいと思って、金魚になろうと誓いました。
―そうですか。小滝さんは金魚になるためにどのようなことをしているんですか?
小滝:金魚の動きを毎日じっくりと観察して、それを真似られるように練習をし続けています。水中での呼吸や泳ぎ方のコツなど、学んでも学んでも新しい課題が見えてきて全く飽きることがありません。
―素晴らしい向上心ですね。毎日沢山の時間を使って努力して金魚になることで、一体どのようなメリットがあるのですか?
小滝:金魚になることで水の中で生きる生物たちの心をより深く理解することができると思います。また、彼らが普段感じている水の流れや音などを感じ取ることができるようになると、自分自身の感性も磨かれると思います。まぁ、単純に金魚になれたらって考えてみるだけでもすごく楽しそうじゃないですか? 水草の中をくぐり抜けたり、水面を跳ねたり、人間社会のようなつまらないしがらみから解き放たれて自由になれるじゃないですか。
―そういうものですかね。ところで、金魚たちがこんなに沢山いる池の中で人間が泳いだりして、小滝さんご自身もそうですけど金魚たちの体調に悪影響はないのでしょうか?
小滝:特にあまりせんよ。僕が練習しているときは金魚たちも警戒して僕の周囲から離れていることが多いのですが、ときどき近づいてきて僕と一緒に泳いでくれているときもあるんですよ。そのときは仲良く、一緒に楽しい時間を過ごしています。僕らはなんの問題もなく、普通に共存できていると感じていますよ。
―それは良かったですね。最後に、これを見ている皆さんに一言メッセージをお願いします。
小滝:はい。僕は途方もない夢を持つ人たちに、他人からはバカにされてしまうような夢を追いかけている人たちに、「あきらめないでほしい!」と強く言いたいです。夢を追い続けることは決して簡単なことではありません。でも、自分自身を信じて努力を重ねることで、夢はきっと叶うんです。僕自身もまだまだ未熟者ですが、金魚たちの泳ぎに学びながら練習を続けています。みなさんも自分が叶えたい夢に向かって諦めずに歩んでいってほしいと思います!
―熱いメッセージをありがとうございました(笑)……はい、これでインタビューは終わりです。お疲れ様でした。
小滝:お疲れ様でした。
―ここからはオフレコで、ちょっと本音で語り合いましょうよ(笑)
小滝:え? 本音でって何がですか? 全部真剣にお答えしたつもりですけど?
―いやいや、そういうキャラ設定もういいんで(笑)
小滝:キャラ? 別に、キャラ設定じゃなくて僕は本気で金魚を目指して――。
―ああもう、マジでそういうのいいんで(笑)! 本音で話してくださいって(笑)結局、小滝さんはお父様が亡くなられたあとはこのお寺を継ぐ予定なんですよね?
小滝:それが何か関係あるのですか?
―将来安泰なんだから働くのもバカバカしいなぁと思って会社辞めて、変な格好して奇抜なことをやって、承認欲求満たそうとしているんでしょ(笑)?
小滝:何を言っているんですか!? こっちは真剣にやっているんですよ!?
―だから、そういうのキツいからもういいですって(笑)毎日SNSに写真や動画を投稿している金魚がどこにいるんですか(笑)?
小滝:いい加減にしろ! なんでそんなことを言うんだ! 僕はただ、金魚たちに心から魅了されて、本当に彼らのようになりたいと真剣に思っているだけなのに、なんでそんなことを言われなくちゃいけないんだ!
激昂した小滝氏は、突然私の前でぶるぶると震えだした。
目を剥き、口をぱくぱくさせながら、その身体はみるみるうちに小さくなっていった。
「お、小滝さん!?」
気が付けば小滝氏の姿は一瞬にして金魚のそれへと変貌しており、跳ねるようにして池の中へと飛び込んでいった。
ポチャン。
彼が行った先へ目をやっても、もはや群れに紛れてどれが彼であった金魚か見分けがつかなかった。
※このインタビューはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。