久保田 美由紀(くぼた みゆき氏)
―まず最初に、なぜ「引きこもりを生み出すビジネス」をしようと思われたのですか?
久保田:言うまでもなく現在の日本の雇用情勢は深刻です。コロナ禍に加え燃料不足や戦争等の世界的なあらゆる問題の影響により、ここ2、3年の間に数多くの企業が倒産し、働きたくても就業先がなくなり仕事にあぶれてしまう方々が沢山出ています。一部の業界を除き、働きやすい環境が整っている所謂「ホワイト企業」においては求人の募集が全くないのが現実です。このような状況下において弊社では就業意欲の低い人々を積極的に引きこもり化し、就業意欲の高い失業者の方々の雇用機会を拡大したいと思い、このようなビジネスを始めました。
――なるほど、そのような意図があったのですね。
久保田:はい、長年解消しなくてはいけないといわれながら就職氷河期世代の正規雇用が全く実現できていないように、日本では人気のある職種、企業の募集なんて本当にないんです。AIの台頭によってこの傾向はより顕著なものになっていくことも確実視されています。だからこそ、引きこもりになれる才能がある方々には積極的に外へ出ないでいただく必要があります。一枚のチョコレートを100人で分けることはできないように、全ての人々が自分らしく働ける社会などありえませんので、弊社のビジネスは日本の社会にとって意義深く、また重要な役割を担っているものであると自負しております。
――引きこもりになりたい方たちへというよりは、働きたい方たちへ向けてのビジネスなのですね。
久保田:弊社は複数の人材サービス会社のバックアップを受けて発足した会社ですので、開始当初は100%そのつもりでした。しかし、実際に動き出してみれば引きこもりになりたい方々からのご相談や支援要請が予想以上に多くあり、現在では弊社の営業活動によって引きこもり化する方々と自主的に引きこもりになりたいと応募してこられる方々の割合はちょうど半々ぐらいになっています。
――その営業活動について教えてください。
SNSやウェブ広告から弊社サイトへ誘導することのみならず、全国各地のハローワークや転職支援サービス会社の出入口に立ち、求職活動中の方に直接お声掛けさせていただくこともあります。
――なるほど、新規顧客の獲得に向けてはなかなか泥臭い営業もされているのですね。しかし、求職者を引きこもりになるよう説得するなど、難しいのではないでしょうか?
久保田: 意外に思われるかもしれませんが潜在的に「引きこもりになりたい」と思っている方々は多いものです。体裁や責任感によってなんとか頑張っているだけで、少し背中を押してあげれば簡単にドロップアウトしてくれます。
――貴社を通じて引きこもりになった場合、具体的にどのようなサービスを受けるのでしょうか?
久保田: 弊社経由で引きこもり化された方々には定期的な面談や必要に応じたカウンセリング、支援などを提供しています。彼らが社会に復帰する芽を刈り取り、一生を部屋の中で過ごしたいと思ってもらえるよう全力を尽くしています。また、講習会やオンライン教育などを通じて複数の引きこもりのプロたちによる専門的なアドバイスを体系的に学習できることも弊社の強みの一つです。たとえばネット上で「発達障害」とか「ADHD」とか「HSP」とか聞きかじっただけの病名を都合良く自分に当てはめて実際の診断を受けたわけでもないのにあたかもそれを免罪符であるかのようにあげつらい薄っぺらい「私が働けない理由」をツラツラとSNSで書いている方々が沢山いますが、あのようなスタイルで引きこもり生活を謳歌している方々の大半は弊社のお伝えしているマニュアルを上手く活用されている方々です。
――なるほど、よく見かける気がします。
久保田: また、メジャーなところでは死ぬ死ぬ詐欺で脅迫し続けることによって両親から搾取し続けるセルフ人質スタイルなどもそうです。さらに無職期間が始まってから「あのときあんなに辛かった」とか「あの出来事がトラウマで動けない」とか、それまで言っていなかった過去の両親への憎しみを突然口にし始めるのも弊社がお伝えしているベーシックな手法ですね。引きこもり生活とはいかに両親の善意につけ込み暮らしを継続できるかに掛かっていますので、年老いた両親への恩返しなど二度と考えることのないよう、その心の殺し方も含めて基礎から徹底的にレクチャーしています。
――しかし、「引きこもりを生み出すなんて」と批判的な声を聞くこともあると思いますが、その点についてはいかがお考えでしょうか?
久保田: 引きこもりに対して批判的な人、差別的な感情を持っている人というのは、恵まれた環境にいる人なんです。働きたくても働く場所がない、働ける場所があったとしても、とても自分の体力ではやっていけない――そういった理由で働きたくても働けない人々は本当に沢山いるんです。ですから、そんなに働けというのなら、「あなたのお仕事を譲っていただけないでしょうか?」とうかがいたいですね。同じ環境、同じ立場になって、同じことが言えますかと。今普通に働けている方々も、引きこもりの方々がいることで巡り巡って自分たちの幸せがあることを忘れてはいけません。「素晴らしき哉、人生」というアメリカの古い映画で描かれているように、この世界は全ての人々が繋がっているんです。誰の存在も誰の活動も必ず自分自身に影響をおよぼしているのですから、引きこもりの方々に対して批判的な考えを持っている方々にこそ、それほど傲慢になれるだけの人生を歩ませてもらっているのだと、引きこもりの方々に感謝していただきたいですね。
――それでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。
久保田: 私たちは今後も引きこもりの方々を増産すべく、彼らが外へ出ていかないよう全力でサポートしてまいります。さらに今後はビジネスの拡大を目指し新たな分野にも進出していく予定です。私たちは社会に貢献することを第一に考え、社会からの信頼を得られるように努力していきます。
――ありがとうございました。引き続き、株式会社 ヒキコモリテイリングの発展に期待しています。
※このインタビューはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。