「チョコマン」こと
柴田 耕太朗(しばた こうたろう)氏
―柴田さん、初めまして。柴田さんは正義のヒーロー「チョコマン」としてご活躍されているそうですが、頭部がチョコでできているというのはなかなか珍しいですね。どうしてそうなったんですか?
柴田:それは僕が幼いころ、誕生日にチョコレートを贈られたことがきっかけです。その時もらったチョコレートを頭に乗せて遊んでいたら、チョコが固まってしまったんです。それ以来、不思議なことに僕の頭部は中身までチョコになってしまい、削れても再生してくるのはチョコという奇妙な身体になってしまいました。
―正義のヒーローとして活躍するにあたって、頭部がチョコでできていることに何か利点などはありますか?
柴田:ないですね。お腹を空かせている人に頭部のチョコレートを切り分けてあげると言っても気味悪がられてもらってくれる人などいません。夏場はベトベトになって動けなくなりますし、なんの意味もありません。
―それは辛いですね。
柴田:辛いですね。なんのメリットもないのに異質な形をしているというだけでからかわれたり、差別をされたりすることもあります。でも、そんなときはいつも僕は自分がヒーローであることを思い出し、自分自身を奮い立たせてきました。僕たちが住む社会には様々な人がいます。僕たちは互いに理解し合い、共に協力して生きていくことが大切なんです。誰かを傷つけたり、バカにすることは決して正義ではありません。
―立派な姿勢だと思います。
柴田:なので、そんな人たちを見かけたら逆にこちらから「僕の頭を食べなよ」と声を掛けるようにしています。
―え、なんでですか?
柴田:チョコレートにはリラックス効果がありますからね。まずチョコレートを食べてもらい、気持ちが落ち着いたところで「人を傷付けるようなことをいうのはやめましょう」と諭す作戦です。
―その作戦はうまくいっているのですか?
柴田:それは……残念ながら、まだ誰も食べてくれないんです。だから僕はずっと、僕の正義を発揮できないでいます。
―ちなみに、そのお味はどうなんですか?
柴田:あ、食べてみますか?
―いえ、遠慮しておきます(笑)
柴田:なんでだよっ!? 食べろよっ!
―!?
柴田:お前も汚いとか気持ち悪いとか思ってんだろ! ふざけんなよ!
柴田さんは座っていた椅子を後ろ足で蹴り飛ばし、肩を怒らせながら部屋を出ていった。
急な出来事に驚き、私はなんの反応もできなかった。
――帰宅後、ビールをあおりながら私は柴田さんのことを思った。
なぜあんなにも怒っていたのか。
『僕の頭を食べなよ』
そう他人に持ちかけては、拒絶される柴田さんを思った。
テレビを付けると戸田恵子が出ていた。
アンパンマンは悪を倒すだけではなく、その頭部のあんパンが美味しいから正義なのだ。
「僕の頭を食べなよ」と声を掛けるたびに嫌な顔で拒絶される――正義のヒーローである彼にとって、それはきっとただ拒絶される以上に悲しく、辛く、恥ずかしく、屈辱的な思いをすることなのだろう。
そんな思いを、彼はずっとしてきたのだ。
気の毒なことをしたと思うが、別に私が犠牲になってやる義理もない。
やりきれない思いが残る、後味の悪い取材だった。
※このインタビューはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。