高木 鞠香(たかぎ まりか)氏(右)
幸谷 麻衣(こうや まい)氏(左)
―はじめまして。今回は入院患者に夜な夜な奇妙な行動をしていると噂の(笑)鴉翠(からすみどり)総合病院の高木 鞠香さんと幸谷 麻衣さんにお越しいただきました。本日はありがとうございます。
高木:はじめまして、夜な夜な奇妙な行動をしている高木です(笑)よろしくお願いします。
幸谷:同じく夜な夜な奇妙な行動をしている幸谷です(笑)よろしくお願いします。
―噂通りの楽しそうな方たちで(笑)それではまず、その奇妙な行動について教えてください。編集部に情報が寄せられたのですが、何やら夜中に突然入院患者の部屋を訪れ「なぞなぞ」を出すことがあるそうですね? どうしてそのようなことをしているのですか?
高木:そうですね、簡単に言えばストレス解消ですね。病院での入院生活は自由な行動が制限されるため、なかなかストレスがたまるものです。そんな中でも患者さんに楽しんでもらえるような何かをしようと思い、なぞなぞを出すことにしました。
幸谷:些細なことですがそんなことでも退屈な入院生活におけるいい刺激になると信じて、高木さんと夜勤がかぶる日にはこの奇妙な行動を(笑)沢山いる入院患者さんのうち一人をランダムに選んで、行うようにしています。
―なるほど、そんな理由があったんですね。そのなぞなぞはどのように考えているんですか?
高木:私たちはオリジナルのなぞなぞを考えています。ネットで検索しても答えがすぐに出てしまうようなものは避けて、ちょっと難しいけど面白いものを出題しています。
幸谷:高木さんはなぞなぞの天才ですよ! 高木さんの作るなぞなぞは難しさと面白さのバランスが絶妙で、いつも尊敬しています!
―それはすごいですね。ちなみに、正解をすると何かあるんですか?
高木:はい、正解した患者さんには小さなプレゼントを用意しています。例えばキャンディーやシール、絵本などです。でも、今までに正解者はでていません。
―え? 正解者はでていないって、そんなに難しいんですか?
幸谷:いえ、ちゃんと考えればわかるレベルの問題なのでたまたまだと思います。ちなみに、不正解の場合は罰があります。
―罰? それは一体、どういったものなんですか?
高木:言えません。
―言えない?
幸谷:分かってるくせに(笑)
幸谷がニヤリと笑った。
高木:なぜ夜中にやっているかと考えていただければ……あとはお察しください。
―もしかして、お二人とも美人ですから……。
高木:そっちじゃないですね(笑)
幸谷:これでもう一つに絞られましたよね(笑)
―いえ、なんのことやらさっぱりですが(笑)
高木:またまた(笑)
幸谷:あなたが嗅ぎ回っていることはわかっています。変な記事を書かれるわけにはいかないんですよ。
私は震える膝を必死でおさえながら、精一杯の虚勢を張った。
「なるほど、やはり、あなたたちですか? 鴉翠総合病院で起きている入院患者連続不審死事件の犯人は?」
高木:さぁ、どうでしょうね?
幸谷:記者さんも高木さんのなぞなぞに挑戦してみませんか? 正解したらご褒美をあげますから。
幸谷が白衣のポケットに手を差し入れたのが見えた瞬間、私は急いで席を立ち、この場から脱出しようとドアへ走った。
「!?」
――ドアノブを回しても開かない。
いつの間にか外側から施錠されてしまったようだ。
「おい! 誰か! 出してくれ! 助けてくれ! 誰か! 誰か!!」
ドアを激しく叩きながら助けを求めていた私の後頭部に、コツンと何か硬いものが当たった。
「ヒッ!?」
幸谷:私射撃とかやったことないですけど、この距離なら外さないと思うんですよ(笑)
その言葉から連想されるものは、一つしかなかった。
幸谷:静かにしてくださいね。聞き逃したら終わりですよ。こっちを向いてください。
「あ、ああ……分かった、分かった……」
彼女を刺激しないよう細心の注意を払いながら、私はゆっくりと振り返った。
真っ黒な銃口が、目と鼻の先にあった。
幸谷:さぁ、それではなぞなぞ、いっちゃいましょう! 先輩お願いします!
高木:それでは問題です。
幸谷:デデンッ!
私のことなどお構いなしに、二人は楽しそうに進めた。
高木:無いのに有るもの、な~んだ?
高木のなぞなぞが出題されてしまった。
とりあえず今はこれに答えるほか打つ手はないのだろう。
考えろ、考えろ……! 無いのに有る……無いのに有る……。
緊張と焦りの中、私は必死になって頭をフル回転させた。
そうして導き出された答え――そうだ、きっとこれだ! これしかない!!
「な、梨っ!」
悲鳴のような声で答えると、幸谷が「ぶっ!」と吹き出し、ケラケラと笑い出した。
幸谷:あっははははは! 不正解! 残念でしたー!
高木:あなたなら私たちを止めてくれると思ったのに、残念だわ。
幸谷:高木さんと決めたんです、なぞなぞの正解者が出てきたらこんなこと終わりにしましょうって。
高木:どうやら、それはまだまだ先の話になりそうね。
腕を組み、呆れたかのように深い溜め息をついた高木。
大袈裟にガックリと肩を落として見せる幸谷。
二人とも狂っている。
高木:最後に教えてあげるわ。私たちがこんなことをするようになったきっかけはね……。三年前のことかなぁ……。幸谷にやたらと強く当たる老害が目障りで、先輩として助けてあげないといけないと思ってね。
幸谷:それから一人、また一人とやっていくうちに、やめられなくなってしまったの。先輩も私も。
高木:だからなるべく幸谷とは夜勤がかぶらないようにシフトを組んでいるんだけど(笑)どうしても一緒になってしまうときがあるから、そのときはもう、やるしかないのよ。
幸谷:全ての患者さんは平等に扱わないといけませんからね。はい、お時間ですよ~。
右手に拳銃を構えたまま、幸谷は器用に左手でポケットから注射器を取り出した。
幸谷:ちょっとチクッとしますね~。
そう言いながら、私の喉に向けて真っ直ぐ注射をしてきた。
「……っ! ……!!」
喉を突く鋭い痛みが走った刹那、私は声を失い、全身の力が抜け落ちて床に倒れ込んでしまった。
身体が動かない。
まぶたが異様に重い。
必死に抵抗しているのに、まるで舞台の緞帳が下りてくるかのように視界が狭まってくる。
こんなところで終わりなのか、俺の人生は――。
薄れ行く意識の中で、最後に聞いたのは高木の声だった。
幸谷:そうだ先輩! なぞなぞの答えを言ってなかったですよ?
高木:あら、ごめんなさい。まだ聞こえるかしら? 正解は、「空性」でした。
わかるかそんなもの。
※このインタビューはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。