車 徳右衛門(くるま とくえもん)氏
―今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。それでは早速、車さんの人生についてお聞かせください。
車:うん、わしは80歳にして現役プロレスラーやで。日本プロレス時代のBI砲(ジャイアント馬場とアントニオ猪木)とも同期や。
―それはすごいですね。では、車さんがどのようにプロレスラーになったのかを教えてください。
車:ああ、それはな、若い時から自分で体を鍛えてプロレスラーを名乗ってんねん。誰にも負けたことはないで。0戦無敗の最強の男や。
―え? 0戦無敗とおっしゃいましたが、つまりリング上で戦ったことがないということですか?
車:おう、誰とも戦ってへんよ。リングに上がったこともない。でも、プロレスラーって心やから。
―いや、リングに上がって試合をしてお金を得るからプロであって、車さんはプロレスラーとは言えないのではないでしょうか……。
車:なんやと!? やんのか!?
―いえ、やりませんけど……。
車:わしの技をくらってみるか? イヤでもわしがプロレスラーだとその身体に叩き込んでやるぞ!?
―ちょっと、やめてください! 叩かないでください!
車:逆水平チョップや。どうや? これでもまだ軽くやってるんやで? わしが本気を出したらあんたカンちゃんのフライングニードロップで骨折したアンドレみたいになるで。
―わかりましたからやめてください。ちなみに、得意技ってなんなんですか?
車:フェアリアルギフトや。
車:なぁ、とにかくわしは誰か相手が欲しいんや。インタビュアーさん、わしとプロレスやろうや。
―そんなことはできませんよ。私はプロレスラーではありませんから。
車:和泉元彌だってプロレスをやったやろ。名勝負やったぞ。ほら、服を脱いでかかってくるんや。
―いや、それはちょっと無理ですね。
車:あかんわ、つまらんなぁ。そんなんやったらインタビューの続きもやらんわ。じゃあ、もう帰ろか。
―ええ、それではお疲れ様でした。
車:ちょっと待ちや! あんた、プロレスについて何も分かってへんなぁ。やる気ないフリをしておいて清宮とやったオカダみたいにこんかい!?
―すいませんが車さん、遊び相手が欲しいなら他を当たってもらえませんか?
車:……何を言ってるねん。
―プロレスごっこがしたいならご家族や友人を頼ってください。
車:……おらんよ。
―え?
車:……妻も友人もみーんな死んだ! わしだけやねん、今! わしはひとりぼっちや! 長生きなんてするもんやない!
―そうだったんですか……。
車:わしは憎い! この老いを知らない強靱な鋼の肉体が!
―それは失礼しました。
車:わかってくれたんならええよ。じゃあちょっと一戦付き合ってくれんか?
―……仕方ないですね、一戦だけですよ。
そうして私たちは公園の原っぱでプロレスごっこをして遊んだ。
「老人の悲劇は彼が老いているからではなく、彼がまだ若いことにある」――オスカーワイルドの格言が思い浮かんだ。
※このインタビューはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。