15 これまで全く音沙汰もなかったモテ期が突然やってきた話

 振られて半年ほど経っても、パパの心はいつもママの名を呼んでいた。
 徹底して仲の良い同僚のラインを踏み越えぬよう頑張っていたけど、毎日顔を合わせて一緒に仕事をしているのだからしょうがない。
 切ない切ないと嘆く心を、まぁまぁとあやすことで精一杯。
 高野山から数か月経ってもまだまだMちゃんを思って苦しみ続けているKをパパが笑わせてやりたいのに、片思いなんかで苦しがっいる自分が歯痒かった。
 それでも家にやって来るKと、ただボーッとゲームをするだけの日々が続いていたある日のこと。
 このままじゃいけないと思い立ち、パパはネットの世界に新しい出会いを求めることにした。
「今からそういうことを始めるから、一緒にプロフィールを考えてくれ!」
 スマートフォンの画面をテレビに映し、Kと一緒に複数の出会い系サイトや婚活サイトに登録した。
 初めて作ったプロフィールは、ふざけた写真とふざけた内容で二人で大爆笑したけど、誰からも連絡がこなかった。
 これはいけない、作り直そうと、Kと一緒に冗談と知恵を出し合いながらプロフィールを一つ一つ修正していった。
 趣味の欄に「古着屋巡り」とか「カフェ巡り」とか、女性が好きそうな、だけど自分は全く興味のないことを入れたりして、また爆笑。
 お互いのセンスをぶつけ合うのが楽しかった。
 登録している女性達の写真やプロフィールを見ながら適当なプロファイリングをしたり、いざデートに持ち込んだらどうするべきかと作戦を練ることも凄く盛り上がった。

 そんな遊びを初めてから三週間ほど経つと、いろんな女性とデートする機会が巡ってくるようになった。
 誰にでも人生に三度はあると言われているモテ期。
 そのうちの一回が、ここから急激に始まった。
 それまでの人生において自分がモテていると感じられた瞬間なんてなかった。
 ブサイク側の人間として身の程をわきまえて節度ある態度で生きてきたつもりだったけど、どういうわけかこの時期だけは出会った女性たちにとてもウケた。
 出会い系や婚活サイトだけではなく、飲み屋で知り合った女性や何かのオフ会で知り合った女性とも仲良くなれるなど、不思議と女性たちの方からパパに近づいてきてくれた。
 催眠術を使ったわけでもないのに、どうしてこの時期だけこんなことが起きていたのかと考えてみると、激動の日々の中で痩せていたこともあったと思うけど、A先生に教わっていた仏教の影響もあったように思う。
 仏様たちのご加護でモテた――とか言ったら気分を悪くされそうなので言わないけど、視野が広がり、新しい発想や考え方を取り入れていくことに夢中になっていたから、ちょっと面白い雰囲気が出ていたんじゃないかと思う。
 実際、その頃は職場の人たちや久しぶりにあった旧友からも雰囲気が変わったと頻繁に言われていた。
 鬱屈とした日々を送り、心を押し殺して生きていた頃の自分とは、きっと別人になっていたんだろう。

 この時期、本当にいろんな人に巡り会えた。
 ママがこれを見る可能性を考慮すると詳細には書けないけど、中には本当に僅かな期間だけの、まるで映画の中にいるかのような、ドラマティックでロマンチックな恋愛もあった。
 もちろん上手くいくときばかりじゃなく、ネットで知り合った人の中にはすっぽかしてくる人もいて、待ち合わせ場所に行っても誰も来ないことがあった。
 アレをされると、傷つくんだよね。
 やはり自分はブサイクだったのだと、現実に引き戻されるから。
 そんなときはKに電話をかけて笑ってもらったり、時間が空いてたら代わりにデートをしようと言って遊んでいた。
 思えばいつかSさんから『パパコロさんは30近くになったら妙に色気が出て遊びたくなるから、結婚は30を過ぎて落ち着いてからがいいですよ』と言われたことがあった。
 自分の方からその言葉に寄せて行ってるのかもしれないけど、またSさんの予言した通りの未来を生きていた。
 そんな狂乱のときを過ごしていたある日、会社の飲み会が終わったあとで、「二人だけで話しませんか」とママから二軒目に誘われた。
 それ以降、振られる前と同じように、また仕事帰りに二人だけで飲みに行ったり、休日にも出かけるようになり、今度はママからパパに「付き合ってほしい」と言ってもらえた。
 モテ期は最後に、特大の奇跡を起こして終わった。
 憧れのママと恋人になり、デートを繰り返すようになった日々は、本当に夢の世界にいるんじゃないかと思った。
 大好きなアイドルとずっと一緒にいるような、幸せで幸せでたまらない毎日。
 一緒に神社やお寺を参拝したり、テーマパークに行ったり、頭がおかしくなりそうなほど毎日が楽しくて、本当に生きてて良かったと心から思った。
 この幸せ過ぎる日々のためにあったことならば、過去の地獄のような日々も全て報われるし、意味のあったものだと思えた。

 それからさらに半年ほどたった頃、ママが一人暮らしをしている部屋に不審者が侵入する事件が起こり、それをきっかけにママがパパの部屋へ移り住んで同棲生活がスタート。
 それからもいろんな事件が起こって、付き合い初めて三年、出会って五年目の春に結婚することになった。