09 帰ってきた青春時代! 初恋レベルの情熱で片思いをした話(前編)

 パパの初恋は中学校一年生のとき。
 隣のクラスのFさんという女子を好きになった。
 それまでも好きだと思う女の子はいたんだけど、このFさんに対しての「好き」はそれまでの好きとは全く違う異常なものだった。
 第一次成長期を過ぎ、第二次成長期に差し掛かり、家庭内でも離婚するだのしないだのゴタゴタがあり、ホルモンバランスがぶっ壊れていたんだろうね。
 きっと脳内では恋愛感情を司るホルモンと呼ばれるPEA(フェニルエチルアミン)がドッパァァァァッと過剰なぐらい分泌されていたに違いない。
 Fさんを一目見たとき、身体中に電流が走った。
『こんなに可愛い人、見たことがない!』
 本当に、一瞬で恋に落ちた。
 廊下でちょっとすれ違ったり、目が合ったりするだけで三日ぐらい喜んでいられた。
 部活と委員会が狙ったわけでもないのに同じだったので、それだけで運命を感じた。
 二年になるとクラスが一緒になり、それなりに親しくなることができた。
 これはきっといける!
 そう思ったパパは、告白するその瞬間を想像し、イメージトレーニングを繰り返した。
『好きです、付き合ってください!』
 堂々と男らしく、キリッとした目で、だけど威圧的じゃないぐらいの感じでカッコ良く誠実そうに伝える。
 そんな瞬間を虎視眈々と狙っていたある日、朝早くに登校したらパパとFさんの二人しかいないときがあった。
 今しかない! ……いや、だけど告白している最中に、他の生徒が登校してきたらどうしよう……。
 突然のチャンス到来にパニックに陥ったパパは、誰かが教室に入ってくる恐怖に怯えながら、それでも今しかないと告白をすることにした。
「……あの、俺はFさんのことが好きになっちゃったんですよね~。よかったら付き合ってくれませんかね~」
 ニヤニヤとした締まりのない笑みを浮かべながら、早口で、顔を真っ赤にして。
「え、本当?」
 きっとその感じが本当に滑稽だったんだろう。
 Fさんはちょっと笑いながら、驚いた顔をして言った。
「うん、うん、本当~」
 そう答えたところで他の生徒も登校してきて、返事は聞けずじまいに終わった。
 このイメージとかけ離れた、最低最悪にカッコ悪い告白は、自分の黒歴史として長くコンプレックスとなった。
『なぜ敬語なんか使った! なぜ茶化した! 臆病者め!』
 自分のことが信じられなくなったし、大嫌いになった。
 それでもFさんはとても誠実な人で、三年生になったある日に突然呼び出してくれて、「あのとき返事ができなくてごめんね」と言って、ちゃんと振ってくれた。
 返事なんて当然もらえないものだと思って勝手に諦めていたけど、一年もの長い間、「返事をしなきゃいけない」とFさんにプレッシャーを与えてしまっていた。
 本当に、申し訳ないことをした。
 そんな結末に終わった初恋。
 以降、いろんな恋愛をしてきたものだったけど、初恋のあの衝動を超える人に出会うことはずっとなかった。
 あの激しい思いは、何も知らない思春期だけにかかる魔法だったとずっと思っていた。
 そんなパパだったけど、28歳にしてそれを超えるほどのときめきを感じられる人に出会えた。
 それが、ママだ。

 ママとの出会いは六月の初旬頃。
 パパが春から働き始めた職場に、二か月遅れで入ってきた。
 初めてのデートは仕事中。
 浅草に二人で出張したとき、打ち合わせが予想外に早く終わった。
 せっかく面白いところに来ているのにこのまま直帰するのもつまらないということで、お互いに神社仏閣が好きだという話題から二人で浅草寺に行くことになった。
 お参りをし、おみくじを引き、二人ともスーツ姿のままで「はなやしき」に行った。
 いつもはクールな調子のママなのに、全く激しくないジェットコースターで絶叫したり、何も恐くないビックリハウスで真剣に驚いている顔を見て、ちょっとドキッとした。
 それから二人で食事に行くと、会話が盛り上がって止まらなかった。
 学生時代、クラスの中でも自分だけしか知らないだろうと思っていた漫画や小説をお互いに全巻持っていたり、マニアックな本やゲームのことも深く語り合えた。
 話しているうちに二人とも大学生の頃、当時つき合っていた人と待ち合わせに使っていた喫茶店が同じ駅の同じお店だったということも分かった。
 通っていた大学も住んでいた場所も全く遠く離れた場所だったのに、二人とも週末になると恋人の都合に合わせていつもそのお店に行っていた。
 全ての客の顔が見渡せるような二階建ての小さな喫茶店。
「当時、絶対に何度も会っていましたよね」
 不思議な縁に驚きながらお互いにそう言い合っていたけど、もしかしたら無意識にちゃんとお互いの顔や声を記憶していて、久しぶりの再会を懐かしんでいたのかもしれない。
 まるで十年来の友に再会したかのように夢中になって話し続け、仕事が終わったのは14時ぐらいだったけど、店を出たのは22時を過ぎていた。
 真っ正面から見つめ合って話しをしていると、完全に好みのタイプの顔だと感じた。
 だけど、職場の人に恋愛感情を持つなんてあってはならない、おかしいことだと思っていたから、それ以上の感情には発展しなかった。

 その日を境にパパとママは職場でも友達のように接することができるようになり、たまに二人きりでランチに行ったり、仕事帰りに飲みに行くようにもなっていった。
 そんな関係から半年が過ぎる頃「心を無視しないで生きる」をテーマに、パパの一人暮らしがスタート。
 様々な気付きを覚えていく中で、ママのことが好きになっている自分にも気付いてしまった。
『僕はあの人のことが好きなんだ』
 不思議なもので、一度自覚してしまえば途端にその思いは止まらなくなってしまう。
 気が付けば、四六時中ママのことばかり考えるようになっていた。