10「自分を大好きでいよう」

 人間はみんな自分のことが大好きだ。
 顔や声など部分的に気にくわないところはあるだろうけど、ご飯をあげ、睡眠を与え、トイレに行かせ、明日も変わらずに大切な自分が生きていけるようケアし続けてあげている。
 それなのに、どういうわけか世の中には『自分のことが嫌いだ』と公言する人が非常に多い。
 嫌いということにしておいた方が得だから、気持ちが良いからそう考えてしまうんだよね。現状の自分に満足しない、志の高い人間という設定をキープすることもできるし、やるべきことから逃げてもいられるから。
 そんな思いから生じている「自分が嫌い」という幻想だけど、恐ろしいことに僕らは言葉に飲まれてしまう。
『嫌いだ嫌いだ』と深刻に自分にいい聞かせ続けていると、何もやる気がしなくなってきたり、突然朝起きれなくなったり、実際に心も身体もおかしくなってきてしまう。
 パパ自身も昔は自分のことを嫌いだと思い込み、ストレス性の腸炎とか胃潰瘍とかたくさん患っていた。
 結局それで病院に行って治療してるんだから好きに決まっているのに、馬鹿な勘違いで自分を傷つけてしまったと本当に反省する。
 どうせ死ぬまで付き合っていくのだから、ストレスは少ない方がいい。
 自分を大好きだと思うようにしよう。
 自分のあらゆる面を認めて、受け入れて、理想と違うところも可愛い個性だと許して、仲良く付き合っていこう。

分裂イリュージョン

 僕らは自分自身を分裂させる癖がある。
 何かトラブルがあると無意識に「もう一人の自分」を生み出し、そこに責任転嫁をしてしまう。
『どうしてあんなことをしたんだ!』とか心の中で叫んだりするでしょう? アレです。
 問題を起こしたのを全て「もう一人の自分」のせいにして、「本当の自分」が傷つくことを避けている。
「もう一人の自分」も「本当の自分」も同じ自分なのに、こんなイリュージョンを使ってまでショックを避けようとしてしまうのは、やはり僕たち人間が欲深いからなんだろうね。
 できる限り損をしたくないから、真っすぐにショックを受けることも避けているんだろう。
 無意識にやってしまうことだけど、こんな態度にも注意が必要だ。
「もう一人の自分」に一方的に罪を被せ続ける態度は、前述の「嫌いだ」と自分を罵る態度と変わらない。
 だからさ、本当に自分と仲良くしてあげよう。
「やらなきゃいけないことを後回しにして寝てしまった」とか、「ダイエットしようと決めていたのに食欲に勝てなかった」とか、現状維持プログラムもあるし、なかなか自分をコントロールできないことが人生には多いものだけど、それを「もう一人の自分」のせいにして罵っていても良い結果は生まれない。
 むしろ自分を傷つけた分だけストレスは増加し、足取りは重く、やる気は減退していってしまう。
 もしかしたら自分を分裂させているように見せて、親や教師や、過去に自分を叱りつけた人に変身しているのかもしれないね。
 いずれにせよ、自分のした行いは自分のした行いなのだから、他人事のように批評する必要なんてない。
 どんな失敗をしたって、同じことを繰り返さないように努力すればいいだけで、自分を責める必要はない。
 ダメな自分を生み出してイジメたりしないで、『大丈夫だよ』と柔らかい態度で自分自身を励ましながら歩んでいこう。

心を他人のように扱う

 A先生は『心を他人のように扱いましょう』といった。
 自分自身に投げかける言葉や態度も他人と同じくらい気をつけようということなんだけど、ついつい僕らは自分の中だけのことで誰に聞かれるものでもないと思うと、乱暴な言葉を使ってしまったりするよね。
 他人に対しては大きな声で怒鳴りつけたりしない人も、自分自身に対しては心の中で『何やってんだよ馬鹿!』とか叫べてしまう。
 毎日『嫌い』とか『ブス』とか友達にいっていたらその友達が壊れてしまうのは簡単に想像できるのに、自分自身には平気で鏡を見る度にいってしまう。
 そういうの、ちゃんと自分も傷ついているからね。
 傷つけるのではなく、尊重してあげよう。他の人には聞こえないという特性を、良い方向に使っていこう。
 何か面倒なことを頑張らなきゃいけないときは、『あとでご褒美をあげるから一緒に乗り切ろうね 』と優しく語りかけてあげよう。
『頑張ってるね、最高に偉いね』とか、『カッコいいよ、本当に素晴らしいよ!』とか、そんな言葉ばかりを自分に投げかけてあげよう。
 自分自身と仲良くなっていると、困難なときでも『大丈夫、大丈夫』と自分を励ます声が聞こえてくるものだけど、仲が悪くなっているといざというときに限って『お前なんか絶対に失敗するよ』という声が聞こえてくる。
 そんなことにならないよう、愛情たっぷりに接してあげよう。
 さらに具体的なアプローチの仕方をいえば、自分の中に浮かんできた言葉や感覚を一切否定しないことが大切だ。
 たとえば大嫌いな人に対して『死ね』とか思ってしまったとき、すぐに『そんなことを考えちゃいけない!』って思ったりすることがあるよね?
 正しいことをいっているようで、これも「本当の自分」の立場から「もう一人の自分」を罵っていることと同じだ。
 自分の気持ちを否定し続けていると、次第に自分自身のことが信じられなくなり、自信を失ってしまう。
 だからどんなに残酷な言葉や汚い言葉が浮かんできたとしても、まずは『そうだね!』、『面白いこというね!』みたいな言葉で肯定してあげて、そこから会話のキャッチボールにつなげていこう。『そんなことを考えちゃいけない!』なんて他人にいわれたって、『はい、そうします』とはならないでしょう。
 浮かんできたことは消せない事実だし、否定したってしょうがない。
 そんなことで自己嫌悪におちいり、自己肯定感を失い、自分自身の気持ちや感情を理解できなくなってしまうことの方が大問題だよ。
 全部受け入れて、認めてあげよう。
 口の悪い自分、緊張し過ぎてしまう自分、臆病な自分――認めたくない自分も全部受け入れて、仲良く進んでいくんだ。
 パパがこれを書いている2019年の7月、ついに君はつかまり立ちを始めた。
 何度も何度も転倒し、足をガクガクさせながらベビーベッドの柵をつかんで立ち上がる姿を見ていると、君の中に君を罵る君がいたら、きっと立ち上がれなかったんだろうなと思う。
『また転んだ! お前はダメなヤツだ!』とか、そんな言葉が浮かんでこないから自分で自分にブレーキを掛けずに何度も何度も挑戦し続けることができるんだよね。
 これを君が読む頃に、なんの作品の影響か知らないけど『自分のことが嫌いだ』とか勘違いしていたとしたら、そんな妄想は今ここで完全に捨て去って欲しい。
 その身体を共に動かす、一緒に気持ち良さを求めて動いてくれるかけがえのない最高の友として、自分自身を誰よりも尊重し、大切にしていこう。
 嫌いになるなんてとんでもないよ。
 死ぬ瞬間まで一緒にいてくれるのは、パパやママでも恋人でもない、自分自身だけなのだから。