8月30日「誕生」

0830

入院開始の朝。

ソワソワし過ぎで早く起きた僕らは、とりあえず優雅に駅のカフェでモーニングでも食べてからタクシーに乗って病院に向かおうと思った。しかし、駅についてみれば凄い人の数。人身事故で電車は運転見合せ。入院用の大荷物を持ちながら、タクシーもつかまらない状況になった。

一度帰宅して時間を待ち、改めてタクシーを呼んだ。

病院について診察を受ける。今日から入院だけどお産はいつになるか分からないと思っていたら、突然「じゃあもうやっちゃいましょうか!」ということになった。

急転直下。あっさりと気軽な調子で始まったものの、お産は困難を極めた。長時間の闘いの末に、彼女は無事に我が子を産んでくれた。

初めて見た我が子は、この世に突然産み落とされたことが大変不満そうな顔をしていた――ような気がした。

BGM~鬼束ちひろ『月光』~

彼女とのファーストコンタクトでは笑顔を向けて、頭を擦り付けて、指を出すと握ってくれたらしいけど、僕には「なんだよお前」って言いたげな様子だった。

それは重責から生じた被害妄想だったのかもしれない。

初めて抱いた感触はとてもヘビーで、もはや彼女の一部ではない、全く別の生き物であるということを強く認識させられた。

彼女は入院になり、僕は一人で帰る道すがら缶ビールを買った。

ありがとう、本当にありがとうと彼女に、世界に祝杯をあげた。

最高の夢

大樹の木陰で涼をとりながら、柔らかい赤ちゃんを抱いている彼女。

その周囲には老若男女も人種も問わず、虫も動物も含まれた世界中の生きとし生けるものたちが集まり「おめでとう!」と祝福の言葉や拍手を彼女と赤ちゃんにおくっていた。

僕はそんな方々一人一人にペコペコと頭を下げながら、慌ただしく感謝の挨拶をしまくっていた。

――この日、彼女が見た夢はこんな感じだったそうじゃ。

そんなわけで彼女自身、今日が出産日だと確信していたそうじゃった。

Rちゃんの人生の指針にも助けにもなる最高の夢を見てくれた。

流石だ。

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