彼女に「けんちんうどん」を買って帰った。13週と1日目。限界みたい。
昨日も早退してしまった彼女。
本日は出社の途中でもうこれは駄目だと思っておやすみの電話を入れて引き返したそうな。
帰りに「夕食を買って帰るように」とLINEがきていたので、スーパーのお惣菜売り場で彼女の好きそうな「けんちんうどん」とか「きんぴらごぼう」とかそういったものを買って帰った。
僕が帰宅しても、彼女は僕の部屋のAIRで寝たきり。
「ただいま」と声をかけると、「もう無理」と帰ってきた。
何が無理なのかと尋ねると、「もう妊婦やめます」、「辞表出します」とのこと。
妊娠による慢性的な体調不良が、そのストレスがもう限界だという訴えだった。
「まあまあ、ちょっと考え直してよ……ねぇ、次に行くところが決まっているわけじゃないんでしょ?」
慰留する人事みたいな態度を取ってなだめた。
「ほら、君の好きな『けんちんうどん』とか、『きんぴらごぼう』とか買ってきたんだよ」
この言葉には、いろんな意味がこめられている。
女性が好きそうなこの手の味の薄いメシを買ってきたのは、「愛」だよ、「思いやり」だよと。
だって僕が僕のために買って帰るのなら「マック」か「とんかつ」に決まっているところを、わざわざ興味のない「けんちんうどん」だよ?
「どんべえ+Lチキ」じゃないんだよ?
そんな気持ち分かるでしょと。
結局、そんな気持ちが多少は伝わったのか、彼女は辞表を取り下げてもう少し頑張ってくれることになった。
それにしても本当にひどいな今週は。
今日で13週と1日。
12週目からが地獄の本番って感じだったとは。
とりあえず今の僕に出来ることは笑ってることと元気でいること。
弱音だけは吐かないようにしている。
その分、会社ではムスッとした顔になっていたりもする。
こんなのがいつまで続くんだろう。
『もう、彼女が苦しむ顔は見ていたくないよ……』
ん?
また耳元で声がした。
気がつけばロープを握っていた。
あれ? 僕はこれを、いつ納戸から出したのだろう。
最近不思議なことが多い。
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